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インプラント再考・6 ブリッジの限界と功罪・・、インプラント以外の治療について

 今回は、「インプラントについて改めて考える」の第6夜・・・、歯が抜けた時のインプラント治療以外の選択肢についてです。
歯が抜けた時の治療の選択肢には、「入れ歯(義歯)」「ブリッジ」「インプラント」があります。
それぞれ、利点欠点がありますが、そこは今日のテーマではありませんのでまた改めて・・・。

 言葉だけではピン!と来ない方もいらっしゃると思いますので、とりあえず簡単にご紹介しますと、
「入れ歯(義歯)」は下の写真のようなものです。
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 歯が無いところに人工の歯を作り、無い部分の両側の歯に針金をかけて口の中に入れます。
実は僕も小さな1本義歯を1回だけ入れたことがあるのですが、正直、違和感が半端ないです(;´・ω・)。
針金のところが気になって、いつも舌でぺろぺろ触ってしまい、舌に傷がついてしまいますし、もやしなんかも針金にいつも挟まります。
ですので、食事のたびに取り外して洗浄・・・、まあ当たり前なのですが、する必要があります。
 この写真の入れ歯でいうと、3本ないところを2本で支えてますので、隣の歯にはそれぞれ2.5本分の力がかかっている訳です。
これでは力学的に長期に使えるはずはなく、両隣の歯は早晩痛んでしまいます。

 ブリッジは、歯が無い部分の両隣の歯を削って、人工の歯をセメントで留める治療です。
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 上の写真のように、歯が無いところの両方の歯を削って、下の写真のように、人工の歯をセメントで取り付けます。
両隣の歯に「橋渡し」するように人工の歯が入りますので「ブリッジ」と呼ばれています。
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 ブリッジは、入れ歯と違ってセメントで取り付けますので、取り外して洗浄・・、なんて面倒はなく、針金も無いですから舌触りも噛み合せも、違和感はありません。
自分の歯にセメントで留めますので、自分の歯のセンサー(これがとても敏感なのです)が働いて、きちんと調整すれば、違和感無く自分の歯のように噛めます。
インプラント登場以前は、これが歯が抜けた時の治療の第一選択とも言える当たり前の治療でしたし、今でも、多くの患者様にこの治療を行っています。
 ただ、このブリッジ治療には大きな欠点が二つあります。ひとつは、両隣の歯を削ってつなぐ、と言うこと。もうひとつは、やはり歯が無い部分の負担が両隣の歯にかかる、と言うことです。

 それでは、本日のメインテーマ、「ブリッジの限界と功罪」について見ていきましょう。
症例1
患者様は、現在43歳女性。
左下の小臼歯と第1大臼歯をつないで入れていたブリッジが取れてしまいました。
中を見てみると、第1大臼歯が、虫歯でボロボロになっています。(鏡像ですので、左右逆に見えます)

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 昔のブリッジは当たり前のように神経を取って削って、銀歯をかぶせていました。
そうすると銀歯の中で虫歯になっても感覚が無く、気が付かないという事態が起きてきます。
銀歯はレントゲンも通しませんので、中の虫歯は見つけるのが難しい時があり、なんか噛み合せが変だなあ・・・、と、思っているうちに、ボロッとかぶせものが取れてくると、中はこんな具合になっているのです。
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 上の写真は、その部分のレントゲン写真です。土台は完全に溶け落ちて、歯根の先までバイ菌が回っています。
この歯は抜歯しか治療法はありません。

 幸い、手前側の小臼歯は、神経が生きていたため被害が最小限で済み、この歯は単独で生かしかぶせて、第1大臼歯は抜歯して2本分のスペースにインプラントを入れることにしました。
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 歯が無いところにインプラントを2本埋入し、治癒後土台を作ります。
その後セラミッククラウンをかぶせています。
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下は、その部分のレントゲンです。
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 それぞれの歯を単独で機能させることで、それぞれの歯の負担を軽減させます。
また、両隣の歯を必要以上に削っておらず、掃除もしやすい形態にしているため、虫歯にもなりにくい状態にしています。
 
 今回、ブリッジが取れてしまったら、中の歯が虫歯になっていた、という症例をご紹介しましたが、ひょっとしたら年配の方なら、同じような経験をされた方が多いのではないでしょうか?
 実は、多くのブリッジは、遅かれ早かれ、このような結末を迎えます。
それは、ブリッジが、「離れた歯をつないで、そこで噛む」という根本的な機能と構造を持っている宿命でもあります。少し難しく感じられるかもしれませんが、大切なことなので、ここで書いておきます。

 皆さんは、人間の歯は、例えば重度の歯周病(歯槽膿漏)でグラグラしていない限り、顎の中で固く固定されているものと感じてはいませんでしょうか?
いや、事実、毎日治療している僕たちでさえ、健康な歯は、顎の中で固く留まっているものと感じています。指で動かすぐらいではびくともしませんし、そうでなければ固いものはうまく噛めません。
 
 しかし、人間の噛む力は、自分の体重と同じくらいと言われています。アスリートなどは、自分の体重の倍の力で噛んでいたケースもあります。
そんな時、ミクロの目で見ると、歯や顎の骨も生体の一部ですので、生理的動揺と言って、強い力をいなす自由な動き(逃げ)を持っているのです。
 それは上顎と下顎で違い、だいたい上顎で150ミクロン、下顎で50ミクロンくらい動きます
たかが50~150ミクロンほどの動きですが、遠く離れた歯を2本つなごうとすると、このわずかな動きが大きく運命を左右します。

 ブリッジそのものは、だいたい丈夫な金属等のフレームでできていますので、体重程度の力がかかっても変形することはありません。
しかし、土台のほうが動くのですから、どこかに「その動きのひずみ」が現れます。
これは、多くは歯とブリッジを止めているセメント部分にかかってきます。だからブリッジを留めても数年~10数年ののちセメントが溶けてしまうのです。

 そこで、セメントが溶けたらパッとブリッジが取れてきてくれたらまだいいのですが、多くは溶けた歯のもう片方の歯のセメントはしっかり残っているため、いつまでも口の中にあり、セメントが溶けたところから虫歯になっても気づかないまま、ボロッと取れてきた時には、その歯はもう手遅れ・・・・。これがブリッジの最も恐ろしい結末です。

 しかし、遅かれ早かれ来る、このブリッジの恐ろしい結末は、今まであまり問題にはされませんでした。
その理由のひとつは、おそらく30年ほど前、まだ虫歯が洪水のごとくあった時代。次から次へと削ってブリッジを入れなければ、どんどん虫歯がひどくなって、重大な健康被害を起こしたから・・・。もう一つは数年でブリッジがダメになったら、また抜いてまた削ってブリッジを入れて・・・。そんな繰り返しで、年を取ったら、いつか入れ歯になることが、みんな当たり前と思っていたから・・・(年を取ったら入れ歯、は全然当たり前ではありません。)。
しかし、予防が発達した現代、そんな当たり前はもう通用しません。死ぬまで「入れ歯無し」で自分の歯で噛む。ここが目標になります。

 残念ながら、現在でも、歯が抜けた時の治療の第一選択は、やはりブリッジです。
これは、歯が抜けた時の治療の選択肢の中で、保険でできる安価で最も効率的な治療法だからです。
だから、雑に作られたブリッジをできるだけ入れてほしくないと思います。いつか必ず両方の歯の寿命を縮めます。

 しかし、どうしてもブリッジでしか治療できない場合も多々あります。その場合、ブリッジの持つ根本的な欠点は解消できませんが、少なくともその欠点を理解して、細心の注意を払って作っていく事はできます。それは歯の欠損の位置、削り方、咬み合わせの与え方、上顎と下顎の違い、患者様の咬合や虫歯、歯周病リスクの勘案、あとは、取らずに済むものならできるだけ神経を取らないこと、などなどです。そして、万が一そのブリッジがダメになった先の治療の選択肢がどうなるのか?そこまで計算に入れる必要があります。20年後の事を考えて治療する、というのはそういう事なのです。

 改めて「症例1」のまとめをしたいと思います。
術前の全体のレントゲン写真です。
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実は右上にも病巣がありました。
前にも述べた「一番奥の歯」です。多くはこの部分から悪くなっていきます。
下のレントゲン写真黄色い丸の中の黒い影が感染病巣です。

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ていねいに根管治療を行いました。
術後、病巣は治癒しています。
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改めて、術後全体像のレントゲン写真です。
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 実は、この患者様は、右上と左下以外、治療の必要な部分はありませんでした。
もともと虫歯のリスクは高くなく、歯周病のリスクも高いほうではありません。
なぜ、左下の歯を失ったのか、今では理解に苦しむ部分もありますが、まあ時代の不運だったと言えるでしょう。

 左下にインプラントをしないで、前後の歯を大きく削り大きなブリッジを入れていれば、やがてまたそのブリッジは外れ、今度はさらに大きく左側の歯を失う事になります。左で噛めなくなれば右の負担が増え、右上の歯の寿命も縮めるでしょう。いずれその影響は前歯にも出てきます。昔の人はそうやって歯を失っていったのです。

 幸いインプラントを選択できたことで、インプラントの前後の歯4本と右上の奥歯の寿命を延ばせたと思っています。
最初に述べたようにこの患者様はまだ43歳です。
女性の平均寿命が90歳に近づく現在、まだまだ50年近く、この歯は使わないといけない訳です。

 もちろん、このままであと50年はいける!なんて大口はたたきませんが、目に見えて明らかな歯を失う「X-Day」を少し遠い未来に先送りにできたとは思ってます。
このインプラントは、この女性の将来にとって大きな福音になると信じています。

 ちょっと、今回は長文になって、症例1だけで終わってしまいました(;^ω^)。
次回も引き続き、まだまだある「ブリッジ→インプラント症例」の紹介をしたいと思います。
お疲れさまでしたm(__)m。
 



by healthcarenews | 2018-01-07 12:17 | インプラント

貴方の健康の舵取りを。堺市北区中長尾町、山本歯科医院の歯科に関する情報のページです。


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