そのニュースはコチラ。
その元ネタは、R25って言うサイトです。
まあ、書いてあった内容は、簡単なものでしたが、まさにその通り!って感じです。
本当に増えてるんですよねー。(ーー;)
またおいおい、症例紹介と対策については触れていきたいと思います。
ただ、少し誤解を招いているといけないので、もう少し整理をしたいと思います。
まず、実は「咬合病」と呼ばれる病気の定義はまだ確立していません。咬合が原因、あるいは咬合が関与すると思われる体に起こる様々な障害を、便宜的に「咬合病」と呼んでいる・・・程度に解釈しておいて下さい。
まあこちらも参考程度にご覧下さい。
ですから、その病態は実に多彩で、前回、前々回の歯を噛み割ったケースもその一部に過ぎません。
また、トゥースウェアと呼ばれる、歯の障害も、この一部です。
歯ぎしりや食いしばり、噛みぐせや、噛み合わせの不調和などが原因で、歯や口腔の周囲組織に無理な力がかかると、歯が欠けたり、割れたり、磨り減ったり。また歯の根が折れたりします。ブリッジが入っていれば、金属を噛み折ることもありますし、入れ歯なんか簡単に噛み割ってしまいます。歯周病があれば、無理な力が組織の免疫を落としますので、歯周病が進行します。
強い力で噛むため、筋肉は緊張し、肩こりや頭痛の原因なります。噛み合わせの不調和は、姿勢を崩し、腰痛の原因になったりします。
咬合病から起こる障害は、原因の特定や解決が難しいため、様々な不定愁訴の原因になり、精神神経的にもダメージを与えていくこともあります。また、逆に、精神神経的なダメージが、「咬合病」となって、
不定愁訴を引き起こすこともあります・・・・・あーしんど。一服しましょう。
まあ、という訳で、当院では「咬合病」に対し、慎重かつ真剣に対策を考えています。
そのひとつが「マウスピース」です。


歯の型を採って、プレートを作ります。
歯ぎしりや、食いしばりの時に歯にかかる力を逃がしたり、顎関節症の治療に使ったりします。
症例によって、ハードタイプ、ソフトタイプ、厚いもの、薄いものを使い分けます。保険診療でできますが、3割負担なら5000円程度かかります。
ただし、結果のほどは、大きく個人差があります。
劇的に、頭痛や肩こりが治り、手放せばくなった人もいれば、違和感になじめず、どうしても入れておくことができない人もいます。2番目のケースのように、明らかに咬合病の素因を持ち、マウスピースまで作っておきながら、いつ起こるかわからない破壊のために使い続けることができず、破壊を招くこともあります。
当院としても、咬合病の素因のある方には、できるだけお知らせをしています。しかし、実際に障害が生じないうちは、なかなか、これといって有効な対策ができないのが現実です。
できることは、やはり素因のある方は、メンテナンスをしながら、注意深く経過観察をすることだと思っています。そうすれば被害を早く発見することもできますし、なにより、患者様本人が知っておくことで、不安を和らげたり、無意識の食いしばりを緩和することもできるからです。
症例を、もうひとつご紹介しましょう。
次の写真は、2004年に撮影したものです。

患者様は女性、当時61歳。右の歯がしみる。右が噛めない、と訴えて来院なさいました。写真は鏡を使って撮っていますので、逆のように見えますが右側の歯です。
審査をしましたが、虫歯はありません。レントゲンを見ても、所々、治療はしていますが、28本全部神経が生きている健康な歯でした。歯周病もほとんどなく、手入れも良かったのでしょうが、恵まれた体質とも言えます。
しかし、当時、原因はわかりませんでしたが、一番奥の歯に、まちがいなく神経への感染が疑われたため、やむなく神経を取りました。
術後です。

改めて見ると、2番目の歯にも、縦にヒビみたいなものが入っています。咬合病だったに違いありません。
このように、健康な歯の持ち主にも、咬合病は不意に襲いかかってきます。
この患者様は、この後継続してメンテナンスに見えられ、8年間何の問題もなく経過していました。もちろん虫歯も歯周病も進行していません。歯のヒビや、すり減り具合から、咬合病のリスクがあることもわかっていましたので、予防用のマウスピースも作っていましたが、「のど元過ぎると熱さ忘れる」のたとえ通り、使い続けるのは難しいものです。
結果、2012年9月。左の上にも同じ症状が発症しました。虫歯も歯周病も無く、激痛が起こります。


8年のブランクを経て、左右対称に咬合病が発症したのです。
前回の症例も、今回の症例も、一番奥の歯に被害が出ています。実は、これも偶然ではありません。理由がはっきりしています。顎の関節に一番近いからなのです。
はさみを想像してみて下さい。固い物や厚い物を切るとき、無意識にはさみの関節に近い部分で切っているはずです。テコの原理で、関節に近いほうが、強い力が出せるからです。

口の中も同じ原理です。奥歯ほど強い力で噛むことができますが、逆に、それが、奥歯を痛めてしまうこともあるのです。
咬合病は、おそろしくやっかいな病気です。ここで難しさを、今思い付く限り、簡単に整理してみましょう。
1.健康な歯でも起こる。健康で、良く噛める歯ほど起こることがある。油断は禁物。
2.歯ぎしりやくいしばりなどは、睡眠中や無意識のうちに行われているので、コントロールが難しい。
3.ストレスが原因の場合、ストレスそのものを無くすことは困難。
4.病気や、弱っている歯の場合、免疫を低下させて病気の進行を早める。
5.ケガと同じで、発症の予測や予防が困難。
6.虫歯や歯周病ならば、早期発見して、適切な処置を行えば、確実に根治できるか、長期に保存できるが、歯にヒビが入った場合は、予後不良。つまり、いきなり2.3年以内に抜歯に至ることが多い。
7.その他多彩な症状を伴う。
いかがでしょうか?
次回は、咬合病予防の一手、マウスピースについてです。
それまでの、ただ、「悪いところを見つけて、削って詰めて、はい終わり。」という治療に疑問を持って、少しでも自分の治療が長く保つように、と願って始めた予防歯科でした。
その頃、まだまだ駆け出しの歯科医師でしたが、たくさんの患者様に御協力頂いて勉強することができました。
その頃の患者様は、いまでもたくさんメンテナンスに来られています、が、初診当時、大体40代後半から50代だった患者様は、皆さん70歳前後になられました。皆さん、この20年間ほとんど歯は抜いていませんが、さすがに年は取ってきましたね(笑)。そりゃそうですね。当時若手歯科医師だったはずの私が、もう50代になりました。(遠い目)。
さて、その頃、手探りで始めた予防歯科でしたが、この20年、理論も技術も長足に進歩して、今ではきちんと管理さえ出来ていれば、虫歯と歯周病は、ほとんど予防できると感じるようになりました。
しかし、歯の病気は虫歯と歯周病だけではありません。
いままで多分、その二人の影に隠れていた「第3の敵」。そして実はこいつがボスキャラかも?て思うぐらい強敵。それが咬合病・トゥースウェアです。

上の写真は、長年メンテナンスに来られている方の左奥歯の写真です。
もちろん詰めてはいますが、虫歯も歯周病も進行していません。しかし、ある頃から、この左の奥歯に時々痛みを感じるようになりました。しかし、何度審査してみても虫歯や歯周病はありません。
そのまま辛抱強く2年ほど経過を見たのですが、ある日激痛に変わりました。考えられる答えはひとつ。「咬合病」です。あきらめて麻酔をして削りました。

奥に、黒いシミのようなものが見えます。歯にヒビが入っているのです。強い咬み合わせが原因で、健康な歯を噛み割ってしまったのです。そして、このヒビからから感染し、激しい歯髄炎を起こしたのでした。
数日後の同じアングルの写真。明らかにヒビが白く見えます。

神経を取った歯が弱くなる、ということは、現実に多くあります。しかし、健康な歯を噛み割るということは、これまで、そう多くは経験しませんでした。しかし、予防歯科の進歩で、歯が多く残るようになると同時に、急激なストレス社会への変化で、咬合を原因とする様々なトラブルが急激に増えてきています。
その症状は、今回のように歯を噛み割る、といった単純なものだけでは無く、頭痛や、顎関節症、精神的疾患に分類されるものまで、非常に多彩で、しかも診断に苦慮するものも多数あります。
術後です。

神経を取り、それ以上割れないように、金属冠でカバーしました。
いまのところは、これで症状もなく推移しています。
しかし、一旦、歯の根に入ったヒビは二度と治りません。そして、そこに感染ルートができますので、正直、そういう歯の予後はよくありません。虫歯と歯周病で歯を抜くのではなく、第3の病で歯を抜くことになるのです。
咬合病は、いまお口の健康に様々な影響を与えているやっかいな病気です。虫歯と歯周病は、細菌の感染による「内科的な病気」と呼ぶことができます、そして、その意味では咬合病は、「外科的な外傷」と呼ぶことができます。つまり、多くのケガがそうであるように、確実な予測や予防が大変難しいのです。
次回ももう少し咬合病に触れていきたいと思います。